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第8回 灯しびとの集いを終えて

20162016.11.18

第8回目の「灯しびとの集い」は、雨の降るイベントの汚名を返上するには十分な天候に恵まれました。天候に後押しされて、ご家族のお出掛けに同行された貴兄もおられたのではないでしょうか。
そんなことを想像させる会場には、昨年を上回る35,000名の来場者がありました。会場に足を運んでいただきました皆さま、大変ありがとうございました。また、開催に向けて有形無形のご協力ご支援をいただきました皆さま、実行員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。

10年目の大きな節目を意識せずにはおけない、8回目のイベント開催。改めて「craft」の意味を見つめ直す機会になったように感じています。craft という言葉を日常的に使う生活環境に居て、ことさら語意を探求することもなく、通念的な解釈は理解していると高を括っていました。

しかし、近年の「クラフトブーム」はその意味を拡大し、より多くの人を巻き込んでいるように感じます。大量に物が必要であった時代が終わり、今は詳細なニーズに対応した物作りが求められています。この細やかな要求には、効率ではなく物の品質で対応することが正義であり、単純消費の抑止にも繋げることができる。そして、引いては無駄を抑えた健全な社会構成の一役を担うのではないかと夢を膨らませていました。
ところが現実には細分化したニーズを満たす細かな供給が乱立し、あるいは刺激的な提案は新たな市場をも構築してしまいます。作り手と使い手を繋ぐシステムの発達が目紛しい今日、俄かに浮上する「手作り」は確かに手を使って物を作っているには違いはありません。

しかし、物には生まれてくるきっかけや作り手が持ったはずの動機があり、その部分こそが大切であり、それこそが人を豊かにするのではないのかと信じてきました。そのような者にとって、マーケットの持つ価値観や値頃感に迎合した「手作り」には鬱陶しさが鼻につきます。では、我らが「灯しびとの集い」は正義を貫けているか?と問われるといかがか。出展者を欺くではないにしても、残念ながら大きく首を縦に振れない状況であることは明らかで、ご来場の皆さまにも多少の申し訳なさというものが在ります。

前述の作り手と使い手を直接に繋ぐシステムの発達は、テクノロジーの強力なバックアップで巧みに進化を遂げています。この複合的なツールもある意味「craft」と言えます。少しでも人の暮らしが豊かに、人の表現がよりイメージする世界観に近づくようにと、システムに携わる作り手は切磋琢磨していることは間違い無いでしょう。
ただ、陶芸やガラス、金工や木工などの物作りと大きく違う点は、旧来の製造業の礎となってきた「より多くの人に」という目的があり、そこにはより大きな経済活動があるのです。経済的な効果を求める世界には投資も集中し、それに伴って優れた感性や技術、知識が集中します。当然に成果は飛躍的に伸びるでしょう。

この巨大なcarft(船)に乗せられた小さなcraft(手仕事)は、あたかも自らがその船を漕艇しているかのように思い、出会うべき人に思いを馳て巡行する。しかし実際には、この大きく強力な船はそう簡単に操ることができない。だから決して扱えているなどと過信して侮らないことが肝心。
デジタル社会はもう後ろを向くことはない。簡単に早く、速く、誰にでも、綺麗に、鮮やかに、ドラマティックにあらゆる形容を飲み込んでいこうとしている。しかし、それは飽くまでもバーチャルの世界。実際の世界には、ものごとの遅延や判断の逡巡、独自性や怠惰、突飛や希少など人の気持ちを裏切る事象が無限に存在する。それらはcraftされた物の重さ、手触り、温度、匂い、詳細なディテールに現れているはず。

この重要な要素は大きな船に乗せられている物からは感じることはできない。人々が移動の目的に大きな船を必要をしたのは遠い昔。手段も多様化した今は、もう純粋な意味での巨大船は必要無くなっている。現代のそれは富の象徴であり、生活の余暇の部分に姿を変えた。

私たちはの狙いは、暮らしの中にある事実を纏った、正直なモノを見つけ出し「これこそが人の営みではないでしょうか」と皆さんに問いかけるような仕事をするべきだと痛感しました。
第8回目の「灯しびとの集い」は訪れた人にどのような贈り物ができたのでしょう…。

これからも灯しびとの集い実行員会は試行錯誤を重ねて参ります。その都度、皆様のご期待を凌ぐ結果を求めていますが、またその逆の結果を招く場合もあると思います。どうぞ暖かく見守りのお気持ちを持ち続けていただければと切に願います。
今回も多くの皆さまのご支援により無事にイベントを終えることができました。本当にありがとうございました。そして今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

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2016年11月吉日
灯しびとの集い 実行委員会会長
辻野 剛

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