会の開催も10回を数えると、実行委員会は運営にも慣れ大きな問題に翻弄されることもなくなります。しかしそれでもやるべき仕事が無くなる訳ではありません。基本的な事柄は変わりませんが、毎年多くの人が関わるイベントです。少しの変化でもその対応に追われる場面もあります。
安全に、公平に、そして関わる全ての人が気持ち良く参加できるイベントを目指し、毎年じっくりと時間をかけて組み立てられるイベントは、仕事や家庭を持ちながら実行委員がボランティアで運営しています。なので苦労がないはずがありません。しかし今年のように開催両日を、この上ない好天に恵まれ、出展作家の皆さまやご来場の皆さまの笑顔を眺めていると、全てが報われる思いがします。そんな沢山の笑顔に恵まれた今年の「灯しびとの集い」は二日間で41,000人の来場者が訪れました。ご来場本当にありがとうございました。
「十年一昔」と言われますが、10回目の「灯しびとの集い」開催にあたり立ち上げ当初を振り返ると、様々思い出され、経過した時間を感じずにはいられません。クラフトフェアを最初に企てた発起人たちに誘われるがままに実行委員のメンバーになった私は、クラフトフェアに出展した経験はなく、以前生活していたアメリカのものをイメージしていました。
アメリカにも多くのクラフトフェアがあり、その種類や格式も様々です。それらはヒッピー文化から生まれ、手作りの物を露店で販売する「道売り」を取りまとめて公園などで開催されたものが発祥ではないかと考えます。それらは80年代には広く市民権を得、クラフトフェアが作り手の生活を支えるように成長していました。さらにそこから一流の作家に成り上がった作り手も少なくありません。
既存の経済の仕組みに依存して生きるのではなく、自分たちの生活の糧を自ら生みだすということは思想であったのです。ある者は農作物を作り販売する。家具を作る者、生活雑器を作る者、衣料品や装飾品も。彼らは近代の社会構造に組み込まれることを嫌い、また自然との共生を支持しました。
それは自らの生き方としてものづくりを選んだという形になり、今の日本のクラフトフェアに出展している人たちの考え方とは一線を画するところでしょう。30年以上の歴史を持つ長野県の松本クラフトフェアには、もしかすると発足当時にはアメリカヒッピー文化の影響が波及していたのかも知れません。ただ現在それを認めるようなことは見つかりませんが。
社会構造からの離脱を原点としたライフスタイルから「富を築く」ということを導くことは非常に難しいことだと感じます。それは多くの社会が経済的な発展を「進化」と評価するからで、それを求めないことが即ち社会構造からの逃避となるからではないでしょうか。現代の暮らしにおいて経済効果を無視することはできません。作り手の制作にも、そして暮らしそのものにも経費が必要です。しかし、その効率性に配慮することが創作の邪魔をすることも事実です。そして、結果として経済的な問題を独自に解決する方法として「売り物」を作ることは悪いことではないでしょう。
ただし、人にとってのものづくりはもっと自由なことであり、原始的に心に宿る衝動なのではないでしょうか?ものを作ることで自己を解放し、他と交流し、共感を得、協力することの手段となる。そんな本質が曝け出された有様を目の当たりにしたいと感じます。経済的な可能性だけが原動力であるならクラフトは衰退します。
さて、私ごとではありますが、この10回目の灯しびとの集い閉会を持って立ち上げから務めさせていただきました実行員会 会長の座を辞することを決めました。今後は、同じく創立期のメンバーである八田 亨氏が会長に就任いたします。
振り返ると、クラフトフェアを作り上げる行為そのものがクラフトであったと言える10年でした。日頃お金の心配をしながら暮らしているからこそ「灯しびとの集い」を作り上げることを経済活動から分離して取り組むことが心地良く、自由になれた場所であったと思います。今も、そして多分この先も「灯しびとの集い」実行委員会は、実行委員が人間らしく自由になれる場所として連綿と受け継がれていくと思います。またそうあって欲しいと心から願って止まないです。
今年は大仙公園の青空の広さがこれまでに増して印象に残りました。
出展作家の皆さま、選考委員の皆さま、そして灯しびとの集い実行委員会、ボランティアの皆さま、大変お疲れさまでした、そしてありがとうございました。
灯しびとの集い 実行委員会
会長 辻野剛
追記
今年灯しびとの集い実行委員会は10回を記念し、実行委員会が選考を介せずに直接出展のお願いを申し入れた作家の皆さまにご参加いただきました。このところの手作りブームが「作家物」を様々な業態が商材として扱い、結果的に単に手作りしたということが物に高い価値を与えるというような誤解を誘う現象が散見れています。元々灯しびとの集いは、来場者に質の高い手仕事を知ってもらい、やがてはそれぞれが目利きの力を育んでいくということを願った会です。ところが単に良い仕事に触れていただくだけでなく、今は「手作りだから価値が高い」という荒っぽい見方が混乱を招いてることも同時に知っていただかないといけなくなりました。
今回の10周年記念作家招請は、来場の方々に作品を観ていただくためというよりも(勿論それも含まれますが)同じ素材に取り組む作家として出展者の皆さんにとって大いに参考となる作家、作品を「灯しびとの集い」の会場でご覧いただきたい。そんな思いがきっかけでした。
「灯しびとの集い」に出展するには運だけでは到底無理だ。作り手としての技量を見抜かれる。そう言われるクラフトフェアになりました。
出展には選考があり、クラフトフェアが「クラフト俱楽部」にならないように、選考には特別に留意してきました。ただしその選考の仕事はいつも難しく、完全に納得のいく結果を得ているとは言い難いものです。当然全ての選考委員の方も選考を簡単にはお考えではいないでしょう。物凄く苦労されていると思います。そう推察しつつ記念作家というカテゴリーを設けて、独自に作家にお声掛けすることは憚れるのですが、決して選考会の結果を軽視した訳ではないことをご理解いただけることを信じ、偏に現代クラフトの捉え方に道標を施すという意図を持って取り組んだこととご解釈いただければ幸いです。